Insights

従業員所有企業移行への道のり

前に進むための決断

ustwo 創業者ジョン・シンクレア(John Sinclair)とマット・ミラー(Matt Miller)からビジネス所有権の移行の可能性についてはじめて相談を受けたとき、私はなんてエキサイティングなアイデアなのだろうと感じ、同時にある意味ほっとしました。ここ数年続いているポストパンデミックの影響により、私たちの生活のさまざまな側面で、先行きの不透明さに対する不安が高まっていました。多くの人がそうであったように、私もこの状況に、安定をもたらす「何か」を求めていたのだと思います。

ustwo studios の所有権の移行プランを固めていくにあたり、わが社の将来を決めてくれる要素が欲しかった。私たちが求めていたもの、それは揺るぎない安定性だったのです。シンクス(ジョン・シンクレアの愛称)とミルズ(マット・ミラーの愛称)は、ustwo のすべての従業員がustwo studios の将来に安心感を持つことができるEmployeeOwnership Trust(EOT:全従業員の利益のために企業の株式を保有するトラスト)に登記する方向でおおよそ決意を固めていたようでした。

とはいえ、従業員所有企業への道のりはたやすいものではありませんでした。新体制下での事業の基盤づくりから申請条件をクリアするための準備、実現可能な財務モデルであるかを検討し株主の同意を得るためのプランを練る、他、課題は山積みでした。幸い登録のプロセス自体はそんなに複雑なものではありませんでしたが、何をおいても私たちにとってとにかく重要だったのは、他者の干渉なしにustwo がすべてを取り仕切ることだったのです。ここでは従業員所有企業への移行を予定している皆さん、現在検討中の皆さんに、私たちがたどったEOT 登録企業への道についてお話ししたいと思います。

まずは組織の基盤づくりから

所有権を移行することで財務と企業文化のどちらも強化できればと、当社の創業者は考えました。ではそのために何をすべきかと考えた時に、事業モデルの基盤から見直す必要がありました。以下は私たちが実際に取り組んだ項目です。

  • ustwo studios CEO、 カーステン・ウィアウィル(Carsten Wierwille)率いる

リーダーチームが、「創業者」の意向よりも「運営に携わるスタッフ」の意見に重きを置く企業の構造改革を実施

  • 収益性アップとサステナブルな資金運用を全支社で実現する運営の見直し。
  • 社会的インパクトの向上を目指しクオリティの高さとバランスの良さを重視した顧

客選びを実施

  • Ustwo が柱とする企業理念を事業に反映するために、2020 年にB Corp 認証を取

得。

2021 年には事業基盤も安定し、移行プロセスの第二段階へと進む準備ができました。

ベストなオプションを選択

シンクスとミルズはすでにEOT の移行システムに登録する方向で話をすぐにでも進めたかったようですが、私たちは他のオプションも比較した上でメリットとデメリットを検討したいと考えました。その結果EOT は他のどの機関よりも確実に利点をもたらす可能性が高いことがわかりました。ustwo 社員のひとりが「ustwo らしい選択だ」と評価した通り、当社の社風に合ったオプションだったのです。最終的にシンクスとミルズがEOT を選択する決め手となったのは、以下の理由によるものです。

  • 今まで通りustwo studios の自立性とビジネスのこれからの決定権を保持できる。
  • 社内のコミュニティ、共有する理念と企業文化を維持できる。
  • 業務品質を落とさずに移行できる。
  • 対外投資を必要としないエバーグリーン運用モデルである。

資産運用は計画的に

EOT(Employee Ownership Trust)は資産の所有権の大部分を経営者から現在所属するスタッフと今後入社してくる社員に移行するための仕組みです。2014 年に定められた、英国財政法の制度下で運営されるこの画期的な信託制度は、発足以来すでに700 社以上もの企業が登録しています。EOT は所有株を初日から売却することができ、取り分が事業利益から後日少しずつ支払われるというユニークなシステムです。たとえて言うならば住宅ローンのようなものです。従業員はマイホームを与えられ即日入居することができる、支払いは今後の収入からローンを分割払いで納めればいい。実際にはEOT のほうが標準的な共同担保よりもさらにフレキシブルで、短期返済も可能なのですが。

ここで確認しておかなければならない重要な項目があります。財務上実際にEOT への登録が可能かどうか、経営困難に陥ることなく事業利益からローン返済が可能なのか、EOT で承認されるための条件をクリアしているか、という点です。EOT での所有権移行を実現するために実行した項目は以下の4 点です。

  • 5 か年計画を立て、事業戦略と財務目標を設定。
  • 独立機関によるustwo studios の監査を行う。
  • 融資価値を左右する数字、EOT に株主が売却を希望するパーセンテージを決定する

(規定上51%以上であることが必要)。

  • 現在の見通しによる売り上げ予測と5 か年計画をもとに、ローン返済プランを立て

る。

ローンの返済スケジュールの目処が立ち(予定では6 年)、審査条件もクリア、そしてEOT 登記への株主の了解も得られたということで、ようやく新制度導入への一歩を踏み出す準備ができたのでした。

いよいよ最終ステージ

ようやくたどりついた最終段階。EOT の運用を監督し、当社の法務・税務アドバイザーと連携して移行プロセスを実行してくれる社外の管財人を任命しました。2022 年4 月4 日、私たちは新しいビジネスモデルで再出発したのです。同時にビジネスパートナーである社員との関係性を深めるため、従業員の中から役員会議に参加してもらう代表者3 名を選出しました。

これからの数か月で私たちは、従業員所有企業としてどう変わっていくのかを見つめ、ともに学んでいくことでしょう。ぼやけていた方向性が今しっかりと定まったことを、私は本当にうれしく思います。当社の企業方針はこれからもずっと自分たちに決定権がある、シンクスとミルズが築いたustwoの精神を守っていこう。それが私たちの義務だと信じています。